4-10 乙女 / 30ml

2022.6 ひと冬超えたので追記。 冬場など寒くなる時期だと服装や暖房の兼ね合いか、何となく重甘い感じになり使いにくかったです。なんていうかな……言葉を選ばずに言うと鬱陶しい感じになってしまう。 この香水、ふとした瞬間かおり方が変わり、胸が毟られるような不思議な気持ちが味わえるのは面白いです。文学作品がモチーフとのことですが、情緒の何たるかが理解できない私でもなるほど！と思います。 使うなら春先～秋口くらいがいいかもですね。 しかしトワレの割にもちが良くて減らない。コスパも二重丸！ 2021/8/21 同メゾンの香水4種全ての厶エットを有償で取り寄せし、後日3種肌乗 せしてから選びました。 試したのは2-23胡蝶、3-17早蕨、4-10乙女。 ムエットの時点では胡蝶を検討していましたが、肌乗せしたらあまりにも香りだちが合わず、1番相性の合いそうな乙女を買いました。(30ml) 瓶、デザインがシンプルでとてもいい。手のひらサイズの30mlボトルは佇まいがいいですね。キャップは内側にプラスチックのパーツがついており、思いのほかきちんと閉まるのも好印象。 肝心の香りですが、吹き付けた瞬間は溢れるグリーン！という感じなのが、しばらく経つとクリーミーな花のような香りに変わり、あとは徐々に消えていくような流れです。今は夏ですが花の香りもムワッとはせず、まろやかだけどスーッと抜けるような緑の香りがあるのでもたれません。 ティアレの香りというのが分からないんですけど、このメインになっている部分のクリーミーなお花がそうなのかな？ トワレではありますが肩とお腹にプッシュして6時間くらいは平気で持ちます。凄い。風がふっと吹いたりすると、自分からいい匂いが漂い癒されます。 ちょっといい石鹸のような……甘ったるさもない代わりにキツい冷たさも感じさせない香りです。とらえどころのない香り、と公式でも説明されていましたが、まああえて説明するならそうなるなぁと言う感じ。中途半端、というのもと違って、風に揺らぐような雰囲気です。清潔感があり、性別を感じさせすぎず、年齢も別段問わない。どなたでもまといやすそうかな。 ちなみに2-23胡蝶、3-17早蕨はいずれも腕の残り香が床屋さんのトニック臭になってしまったので断念。メゾンの共通項として、どの香りもどこか水のような匂いを感じました。 割とどの香りも肌乗せした時とムエットで印象が変わるようなので、出来たらお試しされてから選ぶのがいいと思います。 …続きをみる

恋心。罪びとのときめき。涙のインクでしたためた狂おしい思い。彼女はその手紙に封蝋をして、トランクの棺桶にそっと入れる。何通も書いては、それを白百合の花にはさんで。それは決して届かない愛の手紙。片恋の葬送のように。 サノマの4-10は、ブランドを興した渡辺裕太氏がガルシア＝マルケスの小説「百年の孤独」の１シーンから着想を得て創った香水だ。同じ男性を好きになった姉妹。男性は養女である姉のレベーカに手紙を送り、2人は相思相愛となる。両親はレベーカとの縁談を進めるが、日に日に妹アマランタの体調が悪くなる。訝しんだ母が彼女のトランクをこじ開けると、男に宛てた出せない手紙の束が、白百合の花と一緒にピ ンクのリボンで結ばれて涙に濡れていたというエピソードだ。 サノマは、2020年秋にローンチされた新進気鋭の香水ブランド。「日本人の感性とフランスの調香技術」を融合し、日本人のための香水を創るべく生まれた。創始者の渡辺裕太氏は、フランスに渡って語学と香水業界での勉強を経て、自身の夢を叶えた有言実行の人。彼の真摯な人となりや香水にかける熱い情熱は、日々「Yuta Watanabe note」に綴られており、その飾らない人間性と真面目さにはとても清々しい印象を受ける。 そんな渡辺氏が作ったサノマの香水も、透明感があふれ、清々しい香りを放つモダンな香りが揃った。4種類発売された作品は、1-24、2-23、3-17、4-10と数字で作品名を表し、どこかシャネルの初期作品をも彷彿させる。同時に「源氏香の図」を香りイメージに近い物にあてる和の要素も忘れていない。4-10には「乙女」の香の図をあて、恋の高揚感と悲しみにうち震える少女のイメ―ジと重ねている。 渡辺氏は、この4-10を創るにあたり、「バランスを大切にした」と語っている。「箱の中」に詰められた空想の幸せと「箱の外」の現実の残酷さや冷たさ。そのバランス。恋の喜びと悲しみの狭間。常に混沌として揺れ動く心。そういったものが投影された4-10。では、どんな香りなのか？ なで型の美しいボトルからスプレーする。トップ。一瞬のアルコールの拡散。オードトワレなのでその揮発が過ぎてから香りが見えてくる。すぐにナッティーなコクのある香りと草の匂いがしてくる。あえてグリーンと言わない。シャープで青みのある草の匂いだ。そこに塩みのあるまろやかな香りが寄り添っている。しっとりウォータリーな雰囲気だ。草のある場所。そこから水を感じさせるトップ。少女が一人、庭で花を摘んでいる姿が思い浮かぶ。その瞳には、思い人に恋焦がれる恍惚の光と、同じくらいの悲しみの光が宿っている。大きな瞳がうるむ。草の匂い。花の香り。なぜか止まらない涙。 やがて野の草の匂いが遠のいていくと、4-10 はミドルに変わる。ここからがこの香りの真骨頂。ふくよかなタヒチアンティアレの香りと少し陰影をつけたイランイランのデュエットが、エキゾティックな南国風の白い香りを開いてくる。厚く柔らかい花弁の奥に秘めた、ふんわり甘い蜜の香りだ。それは少女が一人、心の扉を開いて愛の言葉を手紙にしたためるようにロマンティックに流れ始める。それでも、愛しい気持ちを綴れば綴るほど、同じ熱量で悲しみにも襲われて涙が滴り落ちる。ソルティ＆アクアティックな香りが花の香に寄り添い、どこか真新しい悲しみを表しているかのようにも思える。それでも涙を流すだけ流したあとは、恍惚とした瞬間が訪れる。全てを包み隠すクリーミーなヴェールが下りて、白い花と水色の涙にグラデーションがかかる。摘んできた百合の花が匂いたつ部屋。涙でしたためた手紙の匂い。柱時計の音。セピア色の陶酔。 エキゾティックな南国の花の香に清冽な水の香り。そこにほんのりパチュリっぽい土のスパイシーが穏やかに混じってくるとラスト。緑の草→青い水→白い花→茶色い土と変化してゆく展開。シングルノートが多い昨今、これだけドラマティックな展開をする香水を創るとは、さすが名調香師ジャン・ミッシェル・デュリエ。そう思う。持続時間は長め。つけてから６～８時間ほど柔らかくたゆたう。甘さと塩み、湿度と乾燥、幸福と悲哀、ここにはあるべき対比が、静かに拮抗しながら同時に存在して、恋に揺れ動く心を表しているかのよう。 だからこの香りは「百年の孤独」の物語そのものだ。虚構と現実、欲望と節制、生者と死者が混在する一族の連環の幻想的神話とも言うべきマジックリアリズムな香り。同じ名を継ぐ男たちは全て欲望におぼれ、女たちは嫉妬の涙を流す。そして何代にも渡って孤独を積み重ねてゆく。百年分の濃い心。 それは、しじゅう（4-10）あなたを思う香り。百年分の恋心。 …続きをみる